| 気付き
この女、おれのことが好きなのか。
そう気付いたのは恐らく一行の誰(主にかごめ)よりも早かったと思う。それこそ最初は手負いの猛獣の様な刺々しい雰囲気だったから手の付けようもなかったし嫌われてるとばっかり思っていたけど、すこし険が落ちてきた頃になって違うと気付いた。突き刺さってくる視線は確かに冷たかったけど、そこに微かに混ざった「何か」。それに気付いてしまえば、珊瑚はこちらが笑ってしまうくらい分りやすい女だった。
まあそんな風に好意を向けられたとこで、面倒そうな女は御免だけれど。
「ちょっと法師様!」
正直これにはうんざりする。それが女関係でなくてもこうした珊瑚のこうした小言は1日1回必ず聞いてる気がする。きっと大切に育てられてきたから知らないのだと思う。生きていく上での狡さや卑怯さ、逃げ道と娯楽。それを説明する気になんてならないけど、少し放っておいてはくれないものか。
「はいはい。わかってます。わかってますって。」
きゃんきゃんと子犬みたいによく喚く。いや子犬ならまだ可愛いだろうが珊瑚は完全に肉食獣。かみ殺されるか引き裂かれるか、どちらにしたって痛々しいことに違いない。また返事が気に入らないのだろう、完全に不貞腐れてしまった。
「法師さま本当に聞いてるの?」
あー真面目だこと。残念ながら、こちとらそうゆう風には生きてきていないので分りかねます。構って欲しいならそう素直に言えば構ってやるし、行かないで欲しいならそう言えばいい。だけど、どうしてそれが言えないのか珊瑚はこちらに向かって喚くだけ。そうゆうの面倒なのに。
「聞いてる。お前に言われる筋合いはありません」
珊瑚が俯いてしまってから後悔した。珊瑚から好意を向けられていることは十分に分っている。そんな女に言うには些かキツイ言葉だった。それでも今更謝るわけにもいかず少し気まずい雰囲気に沈黙が続く。重苦しい雰囲気に耐え切れず、こちらから口を開こうとしたとき、珊瑚はプイと背を向けて歩き出してしまった。
怒っているであろう背中がどこか悲しげに見えて僅かに残った良心が痛む。
だが追いかけるのも不自然な気がして、そのまま互いに背を向けて歩き出した。珊瑚に嫌われたところで元からどうするつもりもなかった女。どうってことなし、懐かれる方が逆に迷惑。仮に深い仲になったとして、互いに利益が生まれるわけではない。
そう、別に追いかける必要もない。泣いてるなら泣かせておけばいい。でも、
「あーもうっ!」
自分でも面倒だけど、心のもやもやはすぐにスッキリさせたい性格なので、という理由のもと珊瑚を追いかけた。泣かせておけばいい、なんてあの女の泣き顔はもう見飽きてる。これ以上また泣かせてどうするっていうんだ。
付いて来られれば鬱陶しい。いなくなったら寂しい、なんて随分と自分勝手だけど。
「珊瑚!」
とぼとぼ歩いてる珊瑚を見つけるのは本当に簡単だった。泣いてるかと思ったけど、振り向いた顔は不機嫌なまま。珊瑚がすこぶる気の強い女だったということ、すっかり忘れてた。
「なにさ馬鹿法師」
「いや、忘れてました」
「なにを」
「言われる筋合いありました。仲間です。」
珊瑚は少しの間きょとんとしたけれど、すぐに頬を染めて頷いた。ああ分りやすい。喜んでる。これでいつか笑顔もついてきたらいいんだけれど、それはたぶん先のことだろう。こうして少しでも感情が前に出てきた、それだけで充分な成果を挙げている。
これからは毎日少しだけ、珊瑚の恋愛ごっこに付き合ってやるのも悪くないかもしれない。
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自覚した頃には自分が一番ハマる駄目男。
かごちゃんが嬢の気持ちに気付く少し前くらいのイメージ。
チャラ法師に萌え。
珊瑚→→→法師
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これくらい回りくどい関係が好きです。 |