綺麗

野宿ばかりが続いていたが一行はようやく古びた寺を見つけた。もう何年も前に人に捨てられたであろう寂れた寺だったけれど、屋根があるだけマシだとそこで一晩を過ごすこととなった。
そしてその日珊瑚と弥勒は久しぶりに、仲間の目を盗んで床を共にした。寺の中でも奥まった部屋で、大きな穴の開いた天井からは満点の星空が見える。深夜だというのに月明かりが眩しいほどで、よく見えると弥勒は喜んでいたけれど、珊瑚はただただ恥ずかしくてたまらなかった。
   
床に敷いた弥勒の袈裟は乱れて皺だらけだ。
   
「珊瑚」
心地よい疲労感の中で意識を漂わせていた珊瑚は、耳元でそっと弥勒に呼びかけられて重たい瞼をゆっくり上げた。静かな優しい声にはどこか幸福感が混ざっているように思えて、微笑んでみる。こうして抱き合ったあと幸せなのは自分だけじゃないと、思えるから。
    
弥勒の右手が珊瑚の前髪をさらりと撫でた。汗ですこし湿っていたそれが払われると、すっと涼しくなる。心地よい。
    
「お前ほど美しいおなごはいないよ」
しかし、そう言われて珊瑚は今までのうっとりとした空気が晴れたかのように急にぱちりと目を開けた。何度か大きく瞬きをして弥勒を見る。その変わりように弥勒の方が驚いてしまうほどだ。だけれど珊瑚にしてみれば、美しいだなんてしみじみ言われることに対する違和感は相当なもの。
   
「美しい?」
「ええ。それが何か」
     
いつもの軽口だろうと思ったけれど、聞き返しても弥勒はさも当然のように答えるだけで、とてもふざけているようには見えない。珊瑚は上体を起こすと、更にまじまじと弥勒を見つめた。美しいだなんて、弥勒ほど多くの女を渡り歩いてれば美しい女なんていくらでも見てきただろう。それこそ、珊瑚なんて目じゃないくらいの美人はこの世にいくらだっている。
    
「あたし、かごめちゃんみたいに綺麗にも笑えないし、目つきだって悪いよ」
だから綺麗ではないと言いたげな口調に、弥勒はようやっと珊瑚の話の意図を掴んだ。「美しい」と言われたことが冗談か嘘か世辞だとでも思っている様で、その謙虚さや自分に対する自信のなさがどうにも愛しい。弥勒が不安になるほど。それこそ誰にも見せずに隠しておきたいくらい珊瑚は美しいのに、その自覚がないとは。
   
「ならば教えて上げましょうか」
「え?」
弥勒の手が珊瑚の目元をそっと撫でた。
「いつもわたしを見守っていてくれる優しい眼だ。吸い込まれそうになる」
そうして弥勒は一つ一つ、珊瑚に触れてそこがいかに美しいかを褒め称えた。「わたしのどんな不調も聞き逃さない耳」だとか「口付けると柔らかくてとても美味しい唇」だとか「聞いてると落ち着く声」だとか、照れた珊瑚がなにを言っても、それは弥勒が満足するまで終わることはなく、結局珊瑚は頭の先からつま先まで余すことなく褒められ続けた。
   
「わかっていただけました?」
   
「うん、よくわかった。ありがとう」
2度とこんな話題を振るものか。かなり精神をすり減らした気がする。弥勒もすっかり満足したのか珊瑚の手を掴むと、その自分に比べて小さな身体を腕に招き入れた。ぎゅうと少し力を加えれば腕の中で珊瑚が苦しいと不満を漏らすけれど、決して本気で嫌がる素振りはない。
   
「とまあ、つらつらと述べましたけれど」
「え?」
   
「明日もし珊瑚が急に婆様になっても、わたしはそれでも構わないよ」
   
そう言った弥勒の口調があまりにいつものままだったから、まさか本当にそう思っているんじゃないかと思えてきて、珊瑚は自分の頬が再び赤く熱くなるのを感じた。だって、こちらも明日もし弥勒がよぼよぼになっても、髪がなくなっても構わない。それと同じ気持ちということで。
   
    
「まあ、こうして抱き合うためには婆様じゃ困りますけど」
「っっもう!」
   
   
   
   
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無駄に甘くてげろろー。げろろー。
奈落討伐前の体の関係についてはどちらでも構いません。
   
どっちにしても萌える。