| 携帯電話
携帯を新しく買った。Domomoの一番最新のやつで、色はSangoPink。黒とピンクの妙に可愛い女の子向けのデザインだけど、使い勝手もよくて気に入ってる。ただ、こいつがまた煩くて仕方ない。ぴーちくぱーちくとよく喋る携帯だ。
「ご主人様ーっ、起きて起きて!朝だよ!」
今日も律儀に、携帯は昨日の夜に設定した時間ピッタリに喚きだす。お前だって知ってるだろ。昨日は夜中まで飲み会だったんだから、もう少し気を使って寝かせて欲しい。確かに7時にアラームはかけたけど、時間に律儀なお前には既に何度も救われてきたけれど。もう少し寝かせてくれないか。
「だめだって、今日は1限からテストって言ってたじゃないか!」
ゆさゆさ体を揺さぶってくるのが鬱陶しい。前の携帯は愛嬌はあるけれど使い勝手の悪いやつだった。何年も前の型だったから仕方ないけれど、それでは余りに私生活に支障が出るから解約したんだ。あいつの時はこんなことなかった。「うるせえ黙れ」と言えばアラーム機能なんて速攻で消しちゃうような気の小さい奴だったから。
とはいえ、今回の携帯は吃驚するぐらい綺麗な女の姿してるから、そんな暴言が吐ける訳もない。(ちなみに前のやつはタヌキだった。)
「わかったよ、起きる。起きるから、あと10分」
「昨日もそうやって、あたしの電源切ったろ!」
さすがに同じ手にはもう引っかからないか。ぐいぐい腕を引っ張られて、そのまま無理やり座らされる。ああ今日のテストくらい落としたってなんてことないのに。
「おはようっ、ご主人様」
それでも、こうして嬉しそうな笑みを純粋に向けられると憂鬱なんて消えてしまう。少し煩いけど、この携帯を買って良かったと思う瞬間の1つだ。
だけど、それも束の間。「煩い」に次ぐこの携帯のもう一つの特徴。
「あっ、メールが来たよ。ん、また女だ」
とってもヤキモチ妬きで仕方ない。こうして女からの連絡が来るたびに不機嫌になるのだから返信するのだって一苦労だ。ただ文句を言いつつも返信を怠ることは絶対にない。一字一句違えることなく、きちんと相手へ届けてくれる。そんな誠実さがあるから、ヤキモチさえも可愛く思えてしまうんだろう。
「誰から?」
「さくらって子。今日の夜デートしよ。だってさ」
あれま、またそっぽを向いてしまった。
「毎日毎日、よくも女とばっかりメールできるねっ」
そういえば最近やたらこうして拗ねているけど、そういえば買った頃よりもあまり構ってやってない気がする。そうか、お前寂しいのか。だったら素直に言えばいいのに、ほんと可愛いやつ。
「今日は用事あるから無理って返事して」
「用事って?」
「今日は一晩中、携帯でゲームすんの」
くるり、と振り向いた頬が真っ赤に染まってる。嬉しいなら嬉しいって言えばいいのに。それでも嬉しさは十分に伝わってくる。だって、お前は俺の携帯電話。毎日24時間ずーっと一緒にいる存在。嬉しさを隠しながら返信している後姿が愛らしくて、ぎゅっと抱きしめる。
「そ、送信失敗しちゃったじゃないか!離してっ馬鹿!」
この携帯はずっと、解約できそうにない。
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例のCMより。
弥勒さまは大学生設定。前の携帯はハチです。 |