MAIL

  
メールが返ってこない。いや、別にそれくらいどうってことない。それくらいで右往左往する程、恋愛のスキルは低くない、たぶん。というか、そもそも恋愛スキルってなんだ。恋愛もなにも、今まで自分がしてきたのは他愛ない恋愛ごっこ。お遊び。その他諸々の経験をいくら積んだところで、「恋」についてはまるで素人。
おれは、随分と下らないことばかりを練習してきたらしい。
  
「…、くそ」
  
たかがメール。メール。メールメールメール。シカトすることはあれど、シカトされたことなんて実はあんまりない。おまけにそれがデートの誘いだったりしたら、返信率100パーセントを誇っていた。今あいつの所為で99パーセントに下がった。
   
気になって仕方ない。こんなこと言うの恥ずかしいけど、ちょっと勇気を出した。勇気を出して、デートに誘ったんだ。それも学校帰りなんて曖昧なのでなく、ちゃんと休日に、だ。このおれを、こんな気分にさせるなんて酷い女。そんな風に彼女だけを特別扱いしてしまうおれも、充分酷いやつ。
だけど、ほんと、好きなんだ。返信が待ち遠しいほど、好きで好きで堪らない。それにしても返事が来ない。送ってから30分は経っただろうか。いつも林檎みたくなる愛らしい頬。嬉しい気持ちと裏腹に尖ってしまう唇。そんなのを想像していたのに、拍子抜け。
  
イライラ、がだんだん不安な気持ちに変わってくる。
  
どう考えても、あいつはおれを好きなんだ。そんなことは百も承知。誰が見たって当然のこと。バレてないと思ってるのなんか本人くらいなもの。あいつは、おれを、好きなんだ!でも、だけど、そもそもこの考えが実は間違いなのか。実はただすぐ頬が赤くなっちゃう人、だとか。男が苦手、だとか。それとも、ただおれが思い上がってるだけか。
 
 
 
 
 
「いや、それはない」
 
不安な心を打ち消すように、思わず声に出してしまった。完全なる独り言。うわー、かっこ悪い。
 
 
とにかく早く返事が欲しいんだ。このおれが、ちゃんとプランまで決めてるなんて、周りが聞いたらきっと笑う。なにを着るかも迷った。休日はまだまだ先なのに。思春期の乙女かってんだ。悩みすぎてぐちゃぐちゃになったクローゼットはもうしばらく放置。見なかったことにしよう。
 
こんな風になるの、初めてで困る。ハッキリ言って面倒。たかが1人の女の態度や仕草に一喜一憂して、情けなくなる。いつだったか、本気で怒らせたときには必死で謝った。泣かせたときは、こっちまで泣きそうになった。面倒なんだ、そういうの。メールひとつ待てない心が、ほんとに面倒。
だけど、その面倒と引き換えでもいい。どうか1通。この返事をくれないだろうか。
 
 
やっと決意した。やっと決意したんだ。
いつだって不安そうな顔をしてるお前に、一言、告げたいんだ。
 
曖昧に濁して、誤魔化してきたことをハッキリさせようじゃないか。その所為で何度お前を泣かせて、傷つけて、困らせてきたか。それをようやっと、心から謝ろうじゃないか。許してもらった後は告げよう。一言。このどうしようもない気持ちを。
 
 
 
 
「、」
 
震える携帯。情けないほど騒ぐ心臓を抑えて開くと、待っていた人から待っていた言葉。メールでもぶっきらぼうな彼女の短い返事。行く、この2文字をどれだけ待っていただろう。絵文字すらない淡白なメールなのに、あの照れた顔が想像できる。うわ、可愛い。
 
 
好きだ、と告げたらどんな顔をするだろう。笑ってくれるかな。それともまた泣かせてしまうかな。どっちにしても抱きしめてやろう。今までみたいな戯れでなくて、本気でギュッと。珊瑚を抱きしめよう。好きだ。
    
    
    
-------------------------
   
甘酸っぱい高校生みろさま。バカか。