| 熱く甘いキスを5題
1.恋の味を教えよう
「キスしたことある?」
突然なにを言い出すんだと思ったけれど、こんなところで見栄を張っても仕方ない。それに嘘を吐く意味もない。だから珊瑚は素直に応える。もちろん「ない」と。大体、そんなこと聞かなくたって知ってるだろうに。なんていうか意地が悪い。ひねくれてるっていうか、なんというか。
「そっかー。ないのかー。」
一体なんの意図があってのことなんだろう。彼は独り言みたいに呟いて、暫く黙り込んだ。
ボーっとしてるのが珍しくて、その横顔を見つめてみる。
「ねえ、どした――」
続きは言葉にならなかった。顔を覗きこんだ瞬間、まるで神業みたいに触れるだけのキスをされたから。あまりに素早くて自然で、なにが起こったかわからないほどだったけど、唇には一瞬の柔らかさが確かに残っている。
「ファーストキス、奪っちゃった」
おどけたように言うから妙に悔しくなった。別に、大切に取っておいたわけではないけれど、わざわざ投げ捨てるようなものでもない。ファーストキス、もっとロマンチックなものを想像していたのに。なんだ、その、ふざけた顔は。
「返してよ、バカ」
「それ誘ってるの?もしかして」
返してあげる、そう小さな声で彼は囁いた。頬に触れた指先が冷たいのか、それとも頬が熱いのか、どちらなのかよくわからなかった。そっと、キスを返してもらう。さっきと違って不意打ちでないから、今度はきちんと目を閉じれたし、口も半開きじゃない。柔らかさも温かさも、きちんと、分かる。
悪くないファーストキスだと、思う。
2.反論さえ呑み込んで
ああもう。うるさい。ぴーちくぱーちく、明け方の小鳥じゃあるまいし。小鳥なんて可愛い動物じゃないだろう、お前は。チーターだろう。豹だろう。山ネコでもいい。パンサーか。細かいところはどうでもいいんだ、とにかくそういう凶暴で恐ろしい肉食獣だろうが。もちろん美しいよ。しなやかで、美しすぎて背筋が凍るよ。食われてもいいくらいだよ。それに俺が悪いってことは重々わかってるんだよ。そんな風に目くじら立てなくても、毎回そんなに本気でナンパしたりしてるわけじゃないんだよ。3割くらいの浮気心はあるけど、それ以上のことはないし。珊瑚への想いは常に愛情180%なんだよ、分かってますか。こんなに好きなことを、分かってますか。
「大体っ、アンタって人は!」
永遠に続きそうな小言の合間ちょっと強引にキスする。
「ま、また、誤魔化す…」
「また、誤魔化されてくれる?」
愛しい愛しい珊瑚。怒らせてる本人が、こんなこと言ったらまた怒るかな。
ちょっとうるさいけど、ヤキモチ妬いて騒ぐお前も可愛いんだよ。いつもごめんね。
3.唇から伝染する
「うつるよ」
「いいよ、俺にちょうだい」
「知らないんだから」
珊瑚の熱い唇が。弥勒の冷たい唇が。
それどれの求めていた熱が、とても心地よかった。
4.息も止まるくらいに
いつだったかキスの仕方がわからないと言ったら、弥勒は困った顔をして笑った。思うままに、そう言われたところで出来ないものは出来ない。だから珊瑚は困ってしまう。息はどのタイミングですればいいの、目はずっと閉じているの、舌はどう動かすの、手はどこに置くの、考え出せばもっともっと分からなくなってしまう。
「好きにしてごらん。気持ちいいよ。」
好きにするって、どういうこと?キスの仕方がわからないのに、何を好きにするっていうの。
頭で考えてしまうから、訳がわからなくなるのかもしれない。
じゃあ目を開けてみてもいいのかな。いつもと違ってなにもしてくれない弥勒はただ黙って目を閉じている。薄く開いた唇を舌で撫でると、白い瞼が小さく動いた。それから、口元がちょっとだけ笑う。
「なに笑ってるの」
「エロいなあと思って。」
唇に噛み付くと、弥勒はゴメンと小さな声で謝った。
それから、先程の続き。唇を撫でてから差し入れる。彼はいつもどうしていただろう?そう思い返しながら。いつも恥ずかしくて堪らないのに今日はどうしてか余裕がある。たぶん彼が、弥勒がこんな風に大人しく可愛らしくしててくれるからだ。だから、今日は立場が逆になったみたいで、強気でいれる。
吸ってみたり舐めてみたり、思うまま、弥勒が言うように好きな風にしてみる。時々唇を離すと可愛らしい音がして、気付いたら夢中になっていた。もう一度、可愛らしい音を残して唇が離れると弥勒がまた笑ってた。だから、一体なにが可笑しいの。
「息継ぎ、できた?」
「…するの、忘れてたかも」
「おれはいつもそうだったけど?」
いつも弥勒に追いつきたくて、背伸びしていたのかもしれない。型に当てはまろうとしていたのかもしれない。だけど、たぶん、キスってそういうもんじゃないんだ。珊瑚はようやくそれを知った。
5.甘い熱だけ残して
遠くで目覚ましの音がしたけれど、まだ眠たい。
弥勒が起きたのが分かったけれど、まだ眠たい。
リビングでテレビの音がするけど、まだ眠たい。
ごはんと卵焼きの匂いがするけど、まだ眠たい。
夢と現実の間をゆらゆらとさ迷いながら、珊瑚はシーツの中で身体を丸めた。瞼の向こう側が眩しい。それから部屋中が温かい音に包まれてる。起きなくちゃいけないのは分かっているのに、どうしても心地よい。起きられるわけない。
大体、弥勒がいけない。珊瑚が何度も忠告したのに、構わず求めてくる。だから疲れてしまった。それにこのシーツも洗剤のいい匂いと弥勒の匂いが混ざって、やたらと眠りを誘ってくる。おまけにとても柔らかくて、肌触りが堪らなくいい。これで無理やり起きろって言う方が無理な注文だろう。
起きろ起きろ、なんて弥勒は言わないけれど、珊瑚はそんなことをつらつら心で言い訳した。
弥勒が悪い。弥勒が絶対に悪い。
「珊瑚、いってくるね」
「うん」は心の中で答えた。それから「起きられなくてゴメンなさい」も。
「ゆっくりお休み」
弥勒の声はとても優しい。まるでお父さんみたいに。
声と共に頬へ落ちてきたキスもまた、とても優しくて珊瑚は嬉しくなる。嬉しくて嬉しくて、すごくすごく幸せで自然と口元が緩んだ。昨夜みたいな全てを奪う激しいキスもあれば、今みたいに全てを与えてくれる優しいキスもある。そのどれもを、弥勒が色んな感情と共に与えてくれる。
どのキスも好き。どの弥勒も、好き。
弥勒が部屋を出て行く気配を感じながら、今夜の夕飯は何にしようかと、夢心地で考えた。
-------------------------
下へゆくほど濃密な関係になってゆきます(笑)
現代パロではありますが、この人たちの詳しい設定は不明です。お好きに。
達成感…!! |